深センに行ってきましたが、秋葉原は電気街として大変きびしいですね(ツアー編)
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
※追記(20160203 01:41):深センのモノづくりについて詳しく書かれた本が出ましたのでリンク貼りつつおすすめしておきます。
-----
秋葉原という街に関わりがありました関係で「電気街を語るのであれば深圳(深セン)は見ておいた方が良い」「いわゆる"モノづくり"に対する知見を深めたいのであれば深センは一見の価値がある」「デジタルガジェット好きなら深センの華強北(ファージャンペイ)は絶飲食面白い」などのご意見を頂戴し、ならばいざ往かんと言ってきました。深セン。
結論から言うと、行って良かったです。上記3例のアドバイスはいずれも正しかった。
(以下、画像が多いです)
・深センとは?
まず深センについて、一言で言うと香港の隣の中国本土(広東省)です。「一国二制度と言っても発展しきった香港がいきなり中国本土の真隣はきつい…発展度をなだらかにしたい」との事情(?)により経済特区に指定され、まずは台湾資本や香港資本の受け皿として、次第に情報産業の集積地として発展。現在は中国本土と香港の中間のような緩さと発展具合を見せている、という立て付けの街です。Wikipediaによると国際都市競争力は北京、上海、広州に次ぐ4位(中国本土内での比較。香港を入れると5位)とのこと。40年前は漁村だった場所が今ではそれほどの地位を得ているようです。
自分は「珠江デルタ地域」と学生の時分に地理の授業で習った以上の内容を知りませんでした。(現地の方曰く、そのような教科書的な用語は当地ではあまり使われないそうです)
・深センツアー
そんな深センの現状を知るため、チームラボの高須さんの企画した深センツアーに参加させて頂きました。Maker Faire Shenzhen[2015.06.19-21]に合わせ、Maker支援企業のSeeed Studio協力で開催されました。
※追記(20150705 17:50):今回のツアーの深センの記事まとめ
※追記ここまで
■ツアー日程 [2015.06.22-23]
[2015.06.22]
Seeed Studio
Seeed工場
Makeblock
JENESIS
[2015.06.23]
BGI(華大遺伝子)
HAX(HAXLR8R)
HQB(華強北=HuaQiangBei=ファーチャンペイ)
■ツアーの個別企業についての感想もろもろ
・Seeed Studio
この会社を一言で表すと、Makerのスタートアップを支援する企業です。
オフィスはMaker会場前の、丸の内もかくやのオフィスビル街にありました。近所にハードウェアからソフトウェアなどの情報産業のオフィスが集まっていく予定だそうです。オフィス内も洒落ていて、清潔で活気を感じるモダンな場所でした。
Seeedでは、まずビジョンが説明されました。詳しくは他の方のレポートで触れられていますが、社長のエリックパン氏の話を掻い摘まむと、「Makerビジネスどんどん推していく。まだ考えているだけの奴から今まさに作ろうとしている奴、大量生産したい奴までサポートする。そのための計画、試作、改良、生産、流通、販売、パッケージの印刷から流通まで手伝えるからどんどん来いよ」と言った内容でした。
中国には山塞(さんさい、しゃんざい)機という用語があり、山塞とはいわゆる山賊が拠点とした砦のことで、そのようなどこだか分からない場所で生産され、政府指定の検査を抜けて販売されているコピー商品を指していた概念です。*1
今はコピーにオリジナリティを付加するところまで含んでおり、社長のエリックパン氏はこの山塞の概念を前向きに捉え、より安価に、より進化させて行けるように支援したいと熱い想いを語ってくれました。
個人でやろうとするとどうしても手間の掛かってしまう(そして面倒な)部分を支援してくれ、高速で生産サイクルをぐるぐる回せる、それらの“仕組みを作る”のは正しいアプローチだなぁと感心しきりでした。みな面倒なところを人に投げて美味しいところを食べたい。
・Seeed工場
前述のSeeedの工場です。あらかじめ工場内にオープンパーツライブラリとして部品を蓄えているため、注文を受け次第即座に小ロットから生産できる仕組みになっていました。看板の文字とロケットが良いですね。
部品を発注してそれらが揃ってから基板が~と言った流れは冗長過ぎるとのようで、こちらも正しさを感じました。長くやってるとライブラリの古い部品が錆びたりするような、と思ったのですが圧倒されて聞くのを忘れていました。
ツアーに参加していた方が数日前に発注した基板を工場受け取りしており、「あそこで作ったの俺の基板なんすよ」を生で見れました。すごい。
・Makeblock
Makeblockとは、レゴと工作とプログラミングを足して割ったようなもの(個人の感想です)で、アルミ製のブロックと様々なパーツを組み合わせ、スマホから操作できるブロックロボットを作成できるもの。
この会社はブロックとパーツを一通り突っ込んだセットや、特定用途のなにがしかが作れるキットを売りつつ、誰かがイケてる組み合わせを思い付いたらそれをそのままキットにして売ってしまおうというビジネスモデルで、人のアイデアをそのまま取り入れてその人にフィードバックしつつ販売、自分たちはパーツやキットの販路と使い道をどんどん広げて生態系を大きくしていきたい、とのこと。
思わずキット買おうと思ったんですが、前日に買い込んだことを思い出し我慢。秋葉原にある千石通商が代理店になっているそうです。
・JENESIS
こちらは、深センに工場を持ち現地で実際に生産している日系企業です。
イオンのスマホや一太郎タブレットなどの製造を請け負っており、現地での小ロットの生産と合わせて(数万規模の大ロットなら)Foxconnへの製造委託もしているようです。
防塵衣一式に着替え、工場内を見学。トヨタ式の5Sも壁に貼ってありました。
説明と質疑応答では、現地に根ざしている企業ならではの話でこれまた無茶苦茶面白い。
「長く付き合っている業者さんでも納品して貰った部品に2割くらい不良品が出たりすることもある」
「やはり日本人の会社ということで多少周りの会社さんよりちゃんとしていることが求められている」
「中国の場合は旧正月で出稼ぎに来ている方が帰ってしまう慣習がある。ほとんどいなくなったりもするが、うちは色々と施策を行うことで半分くらい戻って来てくれる」
「残業は多すぎても嫌になって辞めてしまうし、少なすぎても稼げなくて辞めてしまったりするのでちょうど良い案配になるよう工夫している」
JENESISのブランドを一回意識すると、デジタルガジェット好きならちょいちょいいろんなところで見掛けるよと同行した方に教えて貰いましたので、意識しておきます。
・BGI(華大遺伝子)
世界を代表する遺伝子研究所で、恐ろしく高いシーケンサーをたくさん使って人間だけでなく動植物から微生物まで、森羅万象の遺伝子をがりがり解析したり研究している場所です。(ロゴ取り忘れていたのでミュージアムの方のロゴを)
1000万する機械がずらっと並んでいる光景を荷物検査無しで見られたのですが撮影禁止エリア。
特筆すべきは、我々西側諸国と違い、諸々の権利の概念があまり重要視されないお国柄であるため、それらをどんどん踏み越えられる点。良くも悪くも凄い。
SARS発生時のウイルス解析や、インドネシアで起きたスマトラ沖地震の際に身元不明者の確認に貢献しているようです。
「13億人の遺伝子を解析したい」「特定の遺伝子の疾病リスクをお知らせする」と言っていて、思わず目を見張る人が幾人か。管理社会やビッグブラザーという言葉が脳内をよぎります。市民、遺伝子検査は義務です。
偉い人が視察しやすいような構造になっていて配慮を感じました。噂のクローン豚は見れなかったのですが、1Fにバイオハザードマーク。文化(と政体)の違いも合わせて、競争力の違いを実感します。
・HAX(HAXLR8R)
ハードウェアのスタートアップを支援する企業です。インキュベーターも兼ねており、アイデア段階から支援して貰えるとのこと。
Kickstarterなどでお金を集めて短期間でプロトタイプから量産まで一気通貫でこなして、その成功を元に増資、株と交換にお金を集めてまた量産、というサイクルをぐるぐる回して行く。
深センには細かい部品屋から工場まで集まっている生態系があり、それらを活用できる、シリコンバレーの1ヶ月が深センでの1週間に相当するほど早いスペースで回せる。
プレゼンが面白く、ハードウェアでイケてるのを出しても大企業に殴りかかられたり即座にアイデアごと遣われてより安く量産されるなどの実例として、XiaomiバンドやPressyが挙げられていました。
KickstarterでPressyに19ドル(送料込みで32ドル)出資した身として、Pressy実物が届くよりも2ヶ月以上早くコピー品が秋葉原で500円で売られている事に疑問を感じていたのですが、これは深センのハードウェア生態系が関わっていたんですね。しかも深センでは1ドル(6元)ほどで売られている。
Pressy本家からのお知らせメールでは量産過程で躓いた*2とあったので、コピー品が本家より早く量産過程をクリアし、販売まで持っていってそれが輸出されて海を越えて日本まで来ていたというスピード感。
無印のパウダービーズソファ(に似たもの)があったり、オフィスに猫と子猫が居てとても癒されます。アレルギー等が無いなら可愛い生きものが居るオフィス良いですね。
・HQB(華強北=HuaQiangBei=ファーチャンペイ)
広さと密度に圧倒されました。旧ラジオ会館にあったパーツ屋が秋葉原ヨドバシカメラのサイズの建物に入っていて、ヨドバシが10も20も建っている感じです。秋月電子や千石電商が好きな人、あきばお~やサンコーレアモノショップが好きな人、デジタルガジェットが好きな人、家電量販店が好きな人は本当に楽しめる街でした。
既に秋葉原は電気街でなくなりつつありますが、深センの華強北を見るとこれはもう街として電気街で売り出すのは大変厳しいことを実感しました。
偽物屋が多かったり、値切らないと足元見てきたりしますがそれ込みで楽しんだ方が良いです。値段交渉も含めて別エントリあたりで詳しく書きたい所存。
子どもを3人抱えた店員がお昼ご飯(焼きそばのようなもの)を食べさせていたり、通路で子どもが遊んでいたり、店員がスマホを弄っていたりと全体的に古き良き露天系の緩い客商売スタイル。
電気街内にある最近建ったばかりのピカピカの家電量販店に行きましたが、ブースに人がいないしシャープは本当に人気ないのだな、SONYとPanasonicは人がついているな、シーメンスの家電なんてあるのか、へーこんなメーカー知らなかったな、Samsungはコスプレしたコンパニオンのお姉さんを付けるくらい推されてるのか、など現地ならではの温度感が分かってこちらも面白い。
同行者がHueのような色の変わるLED電球を買うなどしましたが、一つ一つが非常に安い。Bluetoothで音楽が鳴る電球も売っていました。生活必需品な家電を中国で買う気はあまりしないのですが、こういう面白デジタルガジェット系なら良いですね。
深センに行った際の注意点や、華強北で買ったもの(GoProのようなカメラや、平衡感覚で載る電動のマシン)については別に記事を書こうと思いますのでこの辺で。
----
※追記(20160203 01:41):ツアーを企画して下さった高須さんが深センのモノづくりについての書籍を出されたのでリンク貼りつつおすすめしておきます。Kindleなら40%ほど安い。
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
- 作者: 高須正和
- 出版社/メーカー: インプレスR&D
- 発売日: 2016/01/29
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
----
※追記(20150705 17:50):今回のツアーの深センの記事まとめはこちら
----